エンジン内の部品って、オイルに浮いて動いてるんでしょ!? 知ってるぜ👍
って聞いた事があるライダー&ドライバーの方、多いですよね!
でも摩擦工学においては潤滑の種類はなんと5種類もあります。
この摩擦と潤滑の基礎の知識を得ると、どのエンジンオイルが何に適しているのか? が理解できるようになりますので是非最後までご覧ください♪
- 摩擦と摩耗の違い
- 5つの潤滑の種類
- 部品毎に必要なオイル性能
一口に「摩擦」と言っても種類が異なり、オイルに求めるスペックも全く異なります。
逆を言えばココが分かれば欲しいオイルも分かる! って事です♪
記事の目次
摩擦ってそもそもなに?
トライボロジーの定義は「互いに接触しながら相対運動を行う2面間の現象に関する科学と技術」とされています。 ここで重要なのは2面間の表面の接触という事です。
見た目の平面同士が接触するのではなく、「尖った山の先端の極わずかな部分だけで接触している」という点が最も重要なポイントです。
ここを理解しないままに摩擦を理解する事はできません。
見かけの接触面積
これは人間が見たときに、接触面として見えている面積です。 左図の辺a✕辺bで求めますよね。
小学校で面積を求める時にも使う公式ですし馴染みがあると思います。
しかし摩擦を考える上で、この見かけの面積がぜんぶ接触している事はなく、間違った認識となります。 では正しい認識とは?
タイヤの接触面積は
クルマ=はがき1枚分
バイク=名刺1枚分
なんて言うけど・・・?
真実接触面積
ここが最も重要なポイントです! 真実接触面積! 読んで字の如し!
「本当に接触している面積」です。 (図右側)
真実接触面積は「見かけの接触面積の数%以下」であり、僅かな面積で荷重を支えます。
接触点では塑性流動圧力に達するまで変形
↓
接触点の山の先端は潰され凝着を起こす
↓
どちらかを動かす
↓
凝着部が引きちぎられる
↓
同時に新たな凝着が起こる
この繰り返しに必要な力が「摩擦力」です。 この考え方を「凝着説」と言います。 (You Tubeでタイヤのグリップ力でも話した通りです)
掘り起こし説
摩擦を起こす2面間の表面に硬い突起が存在したり、2面間の硬質の粒子が存在すると、柔らかい表面にこれらが食い込んだ状態になりますよね。
この状態で2面間を滑らすと、硬い表面の突起が、柔らかい表面を掘り起こす事になります。 この掘り起こしに必要な力が摩擦力となります。
スパイクがタイヤが雪上路面を掘り起こすと想像してもらうと分かりやすいと思います。
実際の摩擦においては、この両方の摩擦が作用していると考えられています。
タイヤグリップにおいても、凝着説、掘り起こし説(凹凸説)を明確に言い切れる研究結果はまだ発表されていません。
エンジン内部の摩擦においては、掘り起こしよりも凝着摩擦の割合が圧倒的に高いと考えられています。
エンジン摩耗の7種類
摩耗とは「摩擦によって摩擦面の一部が分離する現象」です。
相対運動する2面間に潤滑油膜が存在していない無潤滑や高荷重下での固体潤滑で金属2面間が直接に接触すると摩耗が起こります。
摩耗には大きく分けて7種類が存在します。
1. 凝着摩耗
接触する2面の微小突起が金属凝着を起こし、相対運動によって引き離されるとき、相手金属に付着して摩耗が進行します。
凝着を防ぐには油などの有機物などの吸着分子で、金属表面に存在する酸化膜です。
よってまず酸化膜の破壊が起こり、次に小さな塑性ひずみで凝着を起こします。
2. アブレシブ摩耗
表面が荒いor硬い材料によるひっかき作用、摩擦面の間に摩耗粉、硬い塵埃(じんあい)が混入した場合のラッピング作用が主要因となる摩耗現象。
3. 腐食摩耗
摩擦面に潤滑油中の酸素や燃料油中の硫黄分が作用することで、酸化皮膜や硫化皮膜を作ります。 この被膜が摩擦によって脱落することで腐食摩耗が起こります。
また、摩擦面に存在する潤滑油の劣化生成物が金属面に対して腐食性を持つ場合にも、腐食摩耗が起こります。
但し、潤滑油が酸化して生成する脂肪酸は、金属面に一種の金属石けんの被膜を作って摩擦面を保護し摩耗を現象させることもアリ。
4. 疲労摩耗
疲労摩耗は長い繰り返し応力によって表面近くの材料が疲労破壊を起こし剥離する現象です。
疲労摩耗1. ピッチング
ボールベアリング等の転がり接触部では面圧を高く取る事が多いため、接触の繰り返しによって表層内部の材料が疲労破壊を起こし剥離することがあります。
転がり軸受の表面(レース)に生じるものをフレーキング、ギヤ歯面に生じるものをピッチングと呼びます。
接触部では表面からある深さのところで最大せん断応力が発生し、この応力が限界値を超えたときに表面に小さなクラックが発生。→ 成長することで剥離的に摩耗が進む。
疲労摩耗2. フレーキング
転がり軸受の軌道面や転動面に、うろこ状の形態で表面から剥離する現象です。
転動面における研削キズ、凹凸、固形異物の介在による応力集中、表層部の金属欠陥などを起点として起こります。
防止策としては、負荷容量UP(サイズアップ)、低荷重化、潤滑方式を改善し油膜の厚みアップが有効。
5. エロージョン
エロージョンとは液体(又は気体)の中に硬い固形粒子が含まれていて、流体と相対運動する固体表面を摩耗させる現象のことです。 (アブレシブ摩耗の一種)
エンジンで言えば、オイルエレメントが詰まってバイパスバルブが開いた時には異物が油路を流れていく過程で油路を摩耗させてしまいます。
6. キャビテーション
液体が負圧になると気泡が生じます。 この気泡が潰れる時に局部的な衝撃波が発生し、繰り返し起こると表面が疲労→剥離します。
正式にはキャビテーション・エロージョンと言いますが、通称は「キャビ」と言われることが多いですね☆
7. 微動摩耗
接触荷重を受けて接触する2つの物体間に微動摩耗が加わった場合、接触面に微粉末を生じて起こる摩耗現象のことです。
バイクの場合は、バックステップにカスタムした時、ステッププレートとフレームの間によく起こります。 ボルトをしっかりと締めていても、ステッププレートが微小に振動し、だんだんと削れてボルトが回転せず緩みます(軸力が低下する)
エンジン内部の摩耗、車体の摩耗は上記7つのいずれかに該当します。 それぞれを確実に把握しておけば、原因究明、対策案の検討に役立ちます。
潤滑状態の分類
潤滑とは、荷重を支えている二面間に潤滑剤を供給することで、摩擦の減少、摩耗焼付きなどの表面損傷を防止(減少)させることです。 まずは太字の大枠3類別が大切です。
- 流体摩擦(流体潤滑)・・油膜有り→液体に浮いた状態
- 弾性流体摩擦・・・荷重が高く金属が弾性変形しながら薄い油膜に浮いた状態
- 混合摩擦(混合潤滑)・・境界摩擦と流体摩擦が混在している状態
- 境界摩擦(境界潤滑)・・油膜無し→薄い分子吸着膜
- 乾燥摩擦(個体潤滑)・・乾いた状態(覚えんでよし)
表とは順序が違いますが、両極端な現象から知ると、全体を理解しやすくなります。
流体摩擦とは
一言で表すと、とろっとろ&ヌルッヌル潤滑♡
金属と金属の間に潤滑剤が存在し油膜に浮いた状態の摩擦です。 クランクシャフトのピン、ジャーナルが流体摩擦によって潤滑されています。
ウェイクボードやサーフィンなど水の上に浮いて行うスポーツがありますよね。 液体の上に間違いなく浮いています。
これは液体の抵抗力が人を浮かせていて、潤滑油も全く同じなんです。
つまり”液体が持つ粘度”によって人や物体を浮かせる事ができます。 この現象を上手く利用しているのがクランクシャフトの潤滑ってわけです。
クランクシャフトが回転すると、それに釣られて潤滑油が狭い隙間に引きずりこまれて圧力が生まれます。→この圧力を使ってクランクを浮かせ、摩擦を低減します。
潤滑油が広いところから狭いところへ進入します。この断面を見たときにクサビ形状に見える事から”くさび効果”と呼ばれます。
また、流体潤滑における摩擦係数は「せん断抵抗」で決まります。 よって粘度が高ければ摩擦係数が上がり、粘度を下げれば摩擦係数は下がります。
境界摩擦とは?分子膜潤滑
一言で言うと、油膜が無い潤滑!
流体摩擦のようにたっぷりオイルが無い状態です。
は? 油膜無しで潤滑できんの?? って思いますよね。 できるんです。その理由は・・?
分子レベルの超絶うすい膜に頼って潤滑!
摩擦面の表面に残ったほんの・・・ほんの僅かな分子膜によって潤滑します。 油膜ではないので、オイルに含まれる添加剤や表面の改質層が摩擦を減らします。
↑少し古いデータですが、分子膜が数枚存在するだけでも、摩擦を大幅に低減できています。
エンジン稼働中に境界潤滑を行っている部品は
- カム山
- リフター
- ロッカーアーム
- ピストンTOP
- ピストンリングTOP
- ピストンピン
- カムチェーン
※条件により混合潤滑、流体潤滑に属する事もある
動弁系、ピストン系の摺動部品はほとんどが境界潤滑領域です。
白い部分が油膜が厚く、黒いほど油膜が薄い事を示しています。
ここで分子レベルの油膜を強固に作ってくれる物質が・・・
エステル!(・∀・)イイネ!!
そうなんです。 この分子油膜のいい状態を作れるオイル、入れたいですよね?
この時オイル粘度の影響よりも、しっかりと摩擦面に分子がくっつくのか? が重要な性能です。
吸着には物理吸着と化学吸着の2パターンがあります。
そして摩擦面により強固にくっついてくれるのが・・・エステル。
エステルは、化学吸着なのでくっつきやすい事と、保護性能が高い事が挙げられます。 つまりもってこいの性能って訳です!
とは言え、エステルとて不得意な分野もあるので詳しくは→ベースオイル(基油)の解説で
弾性流体摩擦とは
境界潤滑状態の中で、条件によっては流体潤滑と同じような接触面になる場合があります。
ボールベアリング、ギヤ歯面の潤滑が「弾性流体潤滑」に該当します。
ボールベアリングのボール、ギヤ歯面にはなんと!1万気圧を超える(1平方mmあたり100kg)非常に大きな力が掛かります。
このような大荷重ではボールや歯面がゴムのように弾性変形します。 その2面間に閉じ込められたオイル粘度はとても高く、油膜を形成して部品同士の直接接触を防いてくれます。
金属が弾性変形するほどの高圧の中で油膜が存在し流体が潤滑している状況を弾性流体摩擦と呼びます。
混合摩擦とは
ここまでこれた貴方はもう言葉だけで理解できると思います♪
流体潤滑と境界潤滑の両方が存在した摩擦です。 言わば流体潤滑⇔境界潤滑の通過点のような存在です。
油膜が少しづつ無くなり、少しづつ境界潤滑面が増えていきます。 摩擦面全てが境界潤滑に至らない、どちらにもつかない状態が混合潤滑です。
クランクシャフトはエンジン稼働中は油圧によって流体潤滑で潤滑されていますよね。 でもエンジン停止したらどうなりますか・・?
そう、油膜はなくなり境界潤滑になります。 つまりセルを回す始動時は十分な油圧を油量が供給されないので境界潤滑からスタートします。
そして混合潤滑となり最後、流体潤滑で安定します。
実際のエンジン内部の潤滑は「流体潤滑 〜 混合潤滑 〜 境界潤滑」 へと常に状態を変化しながら潤滑していると考えられています。
また、部品単体や部品の特定の部位だけの摩擦を可視化する研究も各自動車メーカーや技術会で盛んに行われています。 今はピストン、ピストンリング、スカートそれぞれの摩擦状態を可視化する方法の中に”浮動ライナ”を用いる事が多いようです。 TOYOTA、SUZUKIの論文に記載されていました。
ドライブチェーンは何摩擦?
ここまで理解して頂いた方ならもうお分かりですよね!
当然個体摩擦です!笑
エンジン部品のほとんどはオイルがドバドバに掛けられています。 ほんとにビシャビシャに掛かっています。
そんな状態でも、多くの部品は境界摩擦で、油膜は存在せず分子レベルの超極薄の油膜です。
ドライブチェーンは回転中ずっと給油してくれるんでしたっけ??
もう答えは分かりきっていますね!
当然、境界摩擦ですらなく「個体潤滑」です。
You TubeでもBlogでも言っていますが、「チェーン注油直後のパワーチェック」は、若干だけど馬力上がります。 キッチリ仕事し終わったあと、ローラー表面とスプロケットの接触面に油分が残る事はありません。
だから数十kmも走れば油は摩擦面から居なくなります! との主張はここに根拠があるんです!
でも・・・ 最近私の事を取り上げてくれたフォ◯グラさんとかは未だ科学的根拠に基づかず、「イメージ」で話をしていますよね。 まぁプロほど思考回路がサビ付いて動きが硬いので仕方有りません。 ルブを噴く場所はチェーンではなく頭が先なんですけどね!笑
と言う事で、この摩擦の類別と潤滑状態を理解すると、様々な消耗品への理解につながる事は間違いありません。
潤滑の為ではなく、防錆は必要なチェーンはあるし、今からパワーチェックするなら噴くべきです。 目的と方法次第ですね!
※話逸れてスミマセン!
YouTube↓
チェーンメンテ不要論
YouTubeライブアーカイブ↓
まだチェーンメンテしてるの?
エンジン部品の摩擦分類
一般論として認識されている分類です。 不明な部分も多く変わる可能性や最新の研究によって変わる可能性があることをご承知おきください。
潤滑(摩擦)の状態 | 部品名 |
流体潤滑 (厚い油膜) ※粘度の影響大 ※添加剤の影響小 |
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弾性流体潤滑 (高圧で薄い油膜) |
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混合潤滑 (流体と境界の混在) |
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境界潤滑 (油膜無し※分子の油膜) ※添加剤の影響大 ※粘度の影響小 |
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個体潤滑 (完全ドライ) ※素材の特性が影響大 |
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ピストンスカート部は、ずっと境界潤滑、たまに混合潤滑と考えられてきましたが、最新の研究によって5〜6μm程度の油膜が存在する事が分かり、流体潤滑である可能性が高いそうです。
これらを見ると、粘度だけを下げてもエンジン全体の摩擦を下げる影響は以外に少ないですね〜。
もちろんパワーUP、燃費向上に粘度が効く事は間違いないんだけど、境界潤滑領域の分子膜の科学的吸着性能も無視できません。
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