タイヤをどこまで信用していいのか分からん
こう思っているライダーの方はなんと全国で80%も居る!(Andyフィーリング)
バイクのタイヤのグリップ力とは?
グリップ限界って?
空気圧下げるとグリップ上がるの?
逆履きってどうなん? こんな疑問に答えたいと思います。
この記事がライダーのタイヤへの理解を深めるお手伝いができればこんなに嬉しい事はありません!
記事の目次
グリップ力ってそもそも何?
グリップ力とは摩擦力!
タイヤとアスファルトの摩擦力の事です。
摩擦力が高い=グリップ力が高いということ。 つまり摩擦力を高めればグリップが良い事になる!
じゃその摩擦力ってどうやって決まるのかと言うと・・?
摩擦力(F) = 摩擦係数(μ) ✕ 垂直荷重(N)
この式で決まります。
つまり摩擦係数と垂直荷重(物理学では垂直抗力)を掛けた数字です。 垂直荷重はタイヤに掛かる荷重です。 ここまではメッチャ簡単。
そしてこの式を理解できると、グリップ力を高める方法はたった2つしかない事が分かります。
その2つの方法とは?
- 摩擦係数を高める
- 垂直荷重を増やす
これだけ。
めっちゃ簡単でしょ?
摩擦係数ってどうやって決まる?
摩擦係数(μ) = 摩擦力(F) ÷ 垂直荷重(N)
タイヤがどれだけグリップしたか? その力を垂直荷重で割って求めます。
つまり摩擦係数は”滑りにくさ”を表した数字で、数字が大きいほど滑り難い事を示します。
バネ計りの目盛り | 物体の重量 | 摩擦係数 |
2000 | 1000 | 2 |
1000 | 1000 | 1 |
500 | 1000 | 0.5 |
このように摩擦係数が高い方がばね計りの目盛りが増えていく事が分かると思います。
つまり摩擦係数はその物体た持つ滑りにくさを表した数値なのです。
なので摩擦係数が高い物質、物体ほど滑り難い事を意味しています。
各素材の摩擦係数はざっくりこんな感じ↓
素材 | 摩擦係数 |
ABS樹脂(カウル材料) | 0.57 |
鉄 | 0.52 |
テフロン | 0.04 |
砂利道 | 0.4〜0.6 |
積雪路面 | 0.2〜0.5 |
コンクリート舗装 (DRY) | 0.5〜1.0 |
コンクリート舗装 (WET) | 0.4〜0.9 |
アスファルト舗装(DRY) | 0.6〜1.0 |
アスファルト舗装(WET) | 0.3〜0.8 |
舗装路面上でのタイヤとの摩擦係数は幅がありすぎてコレ! とは断言でいないレベル。。。
逆に自分が履いているタイヤと路面によって大きく変わるって事でもありますよねー。 俺のコルサ冷えッ冷えの状態でμの低い路面に行ったら逝く・・・(ガチ)
因みに摩擦係数1.4って組み合わせもあって、Ag(銀)同士、Cu(銅)同士は摩擦係数が1.0を超えます。
コレは置いて引っ張ろうとした時、その重量よりも大きなチカラが必要になる事を意味しています。
垂直荷重ってどうやって決まるの?
まずここはバイクに限っての話とします。
バイク + ライダーの重量 = 最大垂直荷重
です。
ブレーキング時は、限界まで強いブレーキを掛けるとRrタイヤが浮いてジャックナイフ状態になります→ この時全体重と車重がFrタイヤに乗っかります。
加速時でFrタイヤがウィリーするまでスロットルを開けた場合、Frタイヤが浮いてウィリーします。→全体重と車重がRrタイヤに乗っかります。
路面に対し垂直荷重がこれ以上に増える事はありません。
がしかし! 一部例外があって・・・
ウィングレットを装着すると、空力によって垂直荷重が増える『かも』しれないよ!
ブレーキングや立上りなどバイクが直立に近い姿勢の時には若干増えると思います。 でもF1のように自重の数倍ものダウンフォースが生まれるか?と言われたら明確にNO! です。
あとは前後の荷重移動があり、前後タイヤの重量配分が変化した分はもちろん変化します。
しかし片輪に全荷重が乗ったとしても「車重+体重」となります。
バンク中の垂直荷重はどうなってるの?
”転ばない”と仮定して、バンク角に関係なく常に1G(体重+車重)です。
なのでTanθでバンク角に対して発生する横Gを計算する事ができます。 転ばないとするとざっくりこんな感じです。
バンク角 | 横G |
0° | 0.0G |
30° | 0.5G |
45° | 1.0G |
56° | 1.48G |
63° | 1.96G |
64° | 2.05G |
※バンク角はリーン角(接地点と重心を結んだ線)
※車体バンク角はもっと深くなる(Rrタイヤの傾き)
コーナリングで2Gを出すには、バイクを64°傾けなければなりません。 タイヤのバンク角としては67°くらいなのでもう完全にスリップダウンしちゃってますね。。
なので安全マージンを持ったところの現実的な限界はリーン角60°、タイヤ角63°付近ではないでしょうか。
そう考えると、MotoGP中継モニターに表示されるバイクのバンク角も強ち間違っていないように感じます♪
ここまでの内容をおさらい!
- グリップ力は、摩擦係数 ✕ 荷重 で決まる
- 最大垂直荷重は、体重+車重
- コーナリング中の垂直荷重は基本一定
- バンク角で横Gがほぼ決まる
つまり、コーナリング時の垂直荷重は一定なので、よりグリップを上げる為には摩擦係数(μ)を上げるしか方法はありません。
タイヤの摩擦係数を高める3つの方法
次に、荷重を変えられないとしたら摩擦係数を高めてやればグリップ力は上がります。
グリップ力 = 摩擦係数 ✕ 垂直荷重 でしたよね。
タイヤの摩擦係数ってどうやって上げるの??
↓まとめるとこうなります。
「μ」UPの方法 | タイヤ (ゴム等弾性体) |
手法 |
荷重 | 低くする | ・軽量化(車体、タイヤ) ・溝を少なくする ・幅を広く ・径を大きく ・空気圧を低く |
面積 | 広くする | ・溝を少なくする ・幅を広く ・径を大きく ・空気圧を低く |
滑り | 少し滑らせる (10〜15%程度) |
・ABSの設定 ・TCSの設定 ・ライダーの腕 |
※DRY路面限定の条件
簡単に言うと・・・
太くて!
デカくて!
低圧で!
溝の無いタイヤ!
が最高にグリップする、最高にμが高いタイヤって事です!
タイヤ単体としてのμを上げる方法は凡そこの法則に従っています。
なのでMotoGPやF1などのスリックはデッかくて溝が無くて、その中で軽く作られているので強烈なグリップが生まれるという訳です。
タイヤだけが特殊!
実はここまで順調にご理解頂けた方! 実は今貴方は非常識な知識を身に付けてしまっています!笑(笑じゃねー!)
さっき、タイヤのμを高める3つの方法をお伝えしましたが実は!? 物理の常識からかけ離れている現象なんです。
では摩擦の世界の常識とはなんなのかがコチラ↓
アモントン・クーロンの摩擦法則を知らずして摩擦は勝たん!
- 摩擦力は垂直荷重に比例する
- 摩擦力は見かけの接触面積には無関係である
- 運動摩擦の摩擦力は、滑り速度には無関係である
- 静止摩擦力は運動摩擦力よりも大きい
↑は高校物理で習う内容です。
これを更に噛み砕いて簡単に表現すると・・
- 摩擦係数は変わらんねーよ!
- 面積変えても摩擦力変わんねーよ!
- 滑る速度変わっても摩擦係数変わんね−よ!
- 滑ったら、ちょっと摩擦係数下がるよ!
って感じです。
次にこの法則とタイヤを比較すると?↓
摩擦係数UP手法 | タイヤ | 硬い素材 (クーロンの摩擦法則) |
荷重 | 低くする | 変化なし |
面積 | 広くする | 変化なし |
滑り | ちょい滑らせる | 静止させる |
滑る速度 | 5〜15%程度が最も高い | 変化なし |
このように、タイヤの摩擦係数を高める方法は一般的な摩擦の考え方とは真逆の特性を持っています。
つまり、一般的な硬い素材の摩擦力を高めるには垂直荷重(物体を押し付けるチカラ)を高めるしかありません。
しかしタイヤの場合は「摩擦係数と垂直荷重の2つの方法がある」、ここが決定的に違います。
タイヤの空気を抜くとグリップが上がる?
μ上げるには面積増やして荷重減らすんだろ?
じゃ空気抜いた方がいいって事じゃねーか!
ここまで読んで、酒和ちゃんと同じ疑問を持った方は100%理解できています。 素晴らしい!
しかし、残念ながらμは空気圧を抜いただけでは上がりません。(変わらないと言った方がより適切かもしれない)
タイヤの空気圧をどんどん下げていけば、ベコベコになり接触面積はたしかに増えます。
しかしトレッド面均一に荷重が乗る訳ではなく、中央部分に荷重はどんどん減ってしまいます。
逆に際部分は荷重が増します。こんな状態↓
タイヤを内側から見た写真です。 接地面の中央部が富士山の如く盛り上がっていますね〜 と言うか形状的に当たり前なのです。
どんな形になろうがタイヤゴムの容積と表面積は変わらない訳ですから、最も大きな表面積を持つのはタイヤの最大外形となるセンター部分です。
当然、荷重が掛かって潰れると逃げ場が無くなるので反対方向(タイヤ内側)へ向かって変形しようとします。 その結果「車高が下がって潰れているように見える」けど、路面に対して押し付ける力は生まれないのです。
結果、荷重に偏りが生まれるだけで、タイヤの接地面全体で荷重を受ける事ができなくなってしまいます。
タイヤの空気圧を抜いて劇的に摩擦係数が増加すればいいですが、残念ながらそうはなりません。
ほぼ変わらないまま、更に下げていくと著しく低下します。
結果、部分的な荷重が高くなってしまって変わらないのです。
μアップはタイヤの接地面全体で均一な荷重を受ける事が何より重要です。←本当の意味での荷重低減
見かけ上広くなっても均一に荷重が低下する事はありません。それどころか部分的に荷重が上がってしまい、トータルで見た時にはグリップ力は下がります。 と言うか見かけの面積などどうでもいいのです。
これが単に空気圧を抜いただけではグリップ力が上がらない理由です。 (ここを勘違いしていると某九州のショップさんのようにトンチンカンな発言になってしまいます)
タイヤメーカーとバイクメーカーはグリップアップに必要な4つの要素(太く、大きく、溝の少ない、粘着質なゴム)を加味した上で、最大のグリップ力と操縦性を与える空気圧を決めています。
様々な要素が複雑に絡む中で、「空気圧だけ」を下げてグリップが上がる要素があるなら逆に教えてほしいくらい。
もちろん、調整の範囲内なら空気圧を下げる事は問題ありません。
個人的おすすめの範囲は『メーカー指定 〜 マイナス10%の範囲』です。
Rr290なら「260〜290」、Fr250なら「220〜250」の範囲です。
摩擦力を生む2つの説
実は摩擦力が何故生まれるのか? 実はその厳密なメカニズムは今なお解明されていません。
その中でも、粘弾性体であるタイヤに対しては下記2つの説が有力とさてています。
研究者によっても意見が分かれるところですが、近年はある説が有力とされています・・・
1. 凹凸説
写真
文字通り、凹と凸が噛み合う事で摩擦力が生まれるとされている考え方です。
タイヤで考えるなら、アスファルトのデコ凸ボコ凹に、ゴムが入り込む事で摩擦力を生みます。
なんとなく想像できるし、納得しやすい説だと思います。
アモントンの摩擦法則に従う場合に多く使われます
2. 凝着説
写真
近年はこの説が有力であるとの意見が多数を占めています。 凹凸説が間違い! というよりは様々な摩擦原理をより多く説明できる。といったニュアンスです。
めちゃくちゃ簡単に説明するとこう↓
分子がひっ付いた時に、接着剤のようにくっつく!
これの接着力が摩擦力!
凹凸説なら、当然凸凹が深い方がより高い摩擦力を発揮し、ツルツルしたもの同士なら摩擦力は弱くなる事を意味しています。
しかし世の中にはツルツルした方が摩擦力が高い物もたくさん存在します。
クルマ関係で言えば、精密測定の時に使う「ブロックゲージ」が代表的です。
ブロックゲージは表面がとても滑らかでツルツル。 しかしブロックゲージ同士をピタッと密着させるとビクとも動きません。 ツルツルしている物同士なのに摩擦力が高い→ 凹凸説では説明できない現象です。
そこで凝着説の登場!
物体が接触した時、実際には分子同士が接触します。 この時、お互いに接触した分子同士が結合して離れまいとする力こそ摩擦力の正体だ!という理論です。
これなら見た目がツルツルしていようが、ボコボコしていようが関係ありません。
分子と分子がくっ付くか?が全てです。
この分子と分子がくっつく事を、真実接触面と言います。 見かけの面積は関係ありません。
この真実接触面が増えれば増える程、分子間の結合が増える為、摩擦力が増加します。
グリップ力は垂直荷重!
グリップ力は垂直荷重が高いほど良いんです♪
は?
てめー今まで散々荷重は低い方がイイとか言ってただろうが!
確かにその通りで、めちゃくちゃ矛盾している事を言っています!笑
しかし、残念ながらタイヤのグリップ力は、摩擦係数を除いてクーロンの法則に従うのです。
実はこの事、ライダーである皆さんは体験済みなんです・・・。 どゆこと??
自動車学校の急制動で、Frブレーキを強く掛けるように!
8:2のイメージで! 雨は6:4!
こんな感じの内容を制動の時に教官から教わったと思います。
なぜ制動の時、Frを強く掛けてもいいのか?→ Frの垂直荷重が増えて強いブレーキを掛けられるからです。
Rrタイヤに比べてFrタイヤは幅が細く径も小さくできています。
つまりRrタイヤに比べて摩擦係数(μ)は小さいのに、強いブレーキ力(グリップ力)を生む事ができています。
それができる理由は、垂直荷重が高い他ありません。
Rrブレーキはディスク径がFrに比べて小さい&1つしか付いていないにも関わらず簡単にロックしてしまいます。
これはクルマにも同じ事が言えます。
なぜ垂直荷重を上げるとグリップするのか?
ここで先程の摩擦の原理が効いてくるのです。 どういう事なのかと言うと・・?
イメージ図です↓(Andy画伯)
凹凸説の場合
アスファルトは変形しないので、ゴムがアスファルトの凹凸に深く食い込む状態になります。 するとゴムとアスファルトの噛合深さが高く(長く)なるので、より高いグリップ力が生まれます。
この噛合深さが荷重に比例して高くなる領域は、荷重を上げたら上げた分だけグリップ力が増加します。 しかしある荷重に達すると、ゴムがアスファルトに対し底づきした状態となり噛合深さがこれ以上深くならない(突き刺さらない)状態になります。 このポイントがグリップ限界寸前です。
凝着説の場合
ゴムに荷重が乗ると、ゴムがたわんでアスファルトと接触する面積が増加します。→結果、真実接触面積が増加しグリップ力が上がるというメカニズムです。 (左図に比べ、右図のアスファルトとゴムの接触面が増えている事が分かると思います。)
凝着説の場合は、見た目の接触面積ではなく、ミクロの世界で”実際にアスファルトに接触する面積が増えれば良い”事になります。
ちょっと待て!
さっき荷重は減らしたほうがイイって言ってただろ!
確かにタイヤ単体におけるμを上げる方法としては、荷重は減らすべきという事実は変わりません。
だからこそスリックだし、デカいタイヤだし。
その限りなくμを高める設計を突き詰めたタイヤを、高い垂直荷重で使う事こそ、最もグリップさせて走れる。という事になります。
実際、某チームの某ライダーのデータを分析していた時は、タイヤの温度がしっかりと上がりきった状態において垂直荷重が増えてもタイヤμは下がることはありませんでした。むしろ若干増加する事がほとんど。
また、街乗り用の一般公道タイヤにおいても同じ事が言えて、全てのタイヤが温度が上がりきって安定していればμが不変という訳ではありません。
しかしμの下がり幅は僅かで、垂直荷重が増える事でグリップが上がる方が、荷重が増えてμが下がるよりも影響が大きいのです。
エンジン馬力で、トルクは下がるけど回転数が上昇するから結果ピークパワーが更に上がり続けるのと似ています。(余計分かりにくいかも・・?)
タイヤに使われるゴムの主成分
実際には一言にゴムと言っても数百種類があって、ゴムの試験片においては荷重の1/3乗に比例して摩擦係数が変化する素材もあります。 (荷重を加えると摩擦係数が下がる)
しかしタイヤに使われているゴムの種類は限られていて、
NR(ナチュラルラバー)
SBR(スチレン・ブタジエンゴム)
BR(ポリブタジエンゴム)
IR(イソプレンゴム)
IIR(ブチルゴム(イソブチル・イソプレンゴム))
これら5種の主成分にプラスして様々な添加剤が加えれれます。 以前荷重の1/3乗に比例して摩擦係数は下がるよ!と教えて頂いた方の情報を基に調べましたが、そのゴムはタイヤに使われるゴム素材ではありませんでした。
現代のタイヤにおいて、バイクの垂直荷重が最大に掛かったとしても摩擦係数は”ほとんど変わらない”が最も正しい認識でしょう。
レーシングスリックにおいては、温まった作動温度領域において荷重を掛けると”若干摩擦係数が上がる”と言えます。(2メーカーしか知らないけど・・)
因みに某メーカーのスリックのお値段は信じられんくらい高価です・・・ なんでもレアなアースが入ってるとか?いないとか・・
まとめるとこうなります。
- ゴムは荷重を加えるとμが低下する特性がある
- タイヤに使われるゴムはμの低下率が低い
- スリックはμが若干上がる(温度サチレート領域)
- μは温度依存度が大きい
”冷えコル”なんて言葉があると思いますが・・・
荷重よりも温度によってμは大きく変化する事がよく分かると思います。 え!? と思った時にはもう空高く発射・・・
気づいたら地面をゴロンゴロン・・ 絶対に嫌ですよね。 冷えゴケする時はホントに気を抜いた時でまさかこんなところで? 嘘でしょ!? と思えるような場所&シチュエーションです。
ことの時は摩擦係数は半分以下になっていますので、まさにゴム→プラスチックへと変化しているといっても過言ではありません。
冷えコル恐るべし・・・(マッジで笑えない)
タイヤが減るとなぜグリップしなくなる?
2つの説の両方を理解できた方は、タイヤがチビる(減る)とグリップしなくなる理由も簡単に理解でききます。
レース後半でタイヤがタレる!現象はこのように説明できます。
周回数が増す毎に、トレッドゴムが千切れ&削られてゴムが薄くなっていきます。 すると路面の凹凸に刺さるゴムの高さも自ずと低くなりますよね。→結果グリップ力が低下し「滑る」という事象に発展するというメカニズムです。
簡単に言うと、アスファルトにゴムが刺さる高さが低くなるからグリップ力が低下する。
別の表現にすると
分厚いゴムが、薄いゴムへ変化した事で食い込めなくなった(食い込み深さが浅くなる)からグリップ力が低下する。
こう表現するとイメージしやすいのではないでしょうか。
は?
じゃ無くなる事見越して、最初からもっと分厚く作れるじゃんよ!笑
こう思う方も多いと思います。
確かにレース後半にBESTを持っていくるなら、最初から分厚く作る事もアリです。
しかし、アスファルトの凹凸に垂直荷重によってゴムがめり込む事でグリップが生まれるわけです。 分厚くすればするほどゴムは変形しにくくなり、アスファルトに刺さり難くなりますよね。
ちょっと極端ですが、トラックのタイヤをバイクの荷重で押しても硬すぎて刺さらないですよね。
それと同じで分厚くしすぎても刺さらない、薄くても刺さる高さが無い と言う事でその間を取った厚みがベストと言う事になります。
※もちろん厚みだけで全てが決まる訳ではありません
とはいえ、今でもバイクレースはファイナルラップでベストタイムが出る事も珍しくありません。
この事からタイヤのタレよりもライダーの要因の方が大きいと思える事も多々あります。
逆にF1はドライバーの要因よりもタイヤの方が影響が大きく、明確にパフォーマンスダウンが起こります。 全ドライバーのコンパウンド毎のラップタイム低下率をモニタリングしていて、このコース&このタイヤは◯◯周でタレる! というデータを分析しています。
バイクのグリップ力の使い方
せっかくここまで読んで頂いた訳ですから、実際のバイクでどうやってグリップ力を使うか? の考え方イメージを是非持って頂きたいと思います!
こここそ本質!
初心者向け
最大グリップ力 = 縦グリップ + 横グリップ力
どう言う事かと言うと・・?
↓この表からイメージしてください
バンク角 | 縦グリップ(%) ・ブレーキ力 ・スロットル |
横グリップ(%) ・コーナリング力 |
0° (直立) |
100 | 0 |
20° (ミドルバンク) |
60 | 40 |
40° (ワインディング限界) |
30 | 70 |
55° (フルバンク) |
0 | 100 |
縦グリップ=スロットル or ブレーキ
横グリップ=コーナリング
横グリップ + 縦グリップ = 100 を超えると転倒
横グリップ + 縦グリップ = 100 以下は転倒しない
バイクが直立した状態のフルブレーキ
フルブレーキするには、バイクが直立した状態でコーナリングにタイヤのグリップを使う事はできません。
バイクを真っ直ぐ立てた状態で、しっかりとFrブレーキを握ってください。
20°バンクさせた状態
フルブレーキからコーナーへエントリーしている状態です。
バンク角20°分のコーナリング力を作る必要があります。 その分は縦グリップであるブレーキを100→60%へと緩める事で作ります。 出来上がった40%分をコーナリングに使います。
40°ワインディングフルバンク
ツーリングに於けるフルバンクでのコーナリングです。
バンク角40°においてタイヤはコーナリングに70%の力を使っています。 なので何か飛び出したり、ブレーキを掛けられる余力(安全マージン)は30%残した状態です。
立ち上がり
立上りはブレーキは使わないのでスロットル側で考えます。
ワインディング限界は横グリップに70%使っているので、スロットルに使えるグリップは最大30%です。
次に少しバイクが起きて20°になった場合は、横グリップに40%ですから、スロットルに最大60%使えます。
最後バイクが直立したら横グリップは0ですから、100%のフルスロットルで最大加速!
一連のコーナリングのタイヤグリップの使い方です。
直立ブレーキからバンク角に連動してFrブレーキを少しづつリリース。 縦+横グリップの総和が100を超えないようにリリースできれば完璧。
立上りも、バンク角が起きる事に連動して少し起きたら少し開ける。やはり縦+横グリップの総和が100を超えないようにバンク角に連動してスロットルを開け足す事ができれば完璧です。
これをイメージするとこんなグラフになります↓
緑の場合、縦に75%のブレーキング、横に25%のコーナリングなので75+25=100なので転倒しません。
赤の場合、縦に50%のスロットル、横に50%のコーナリングなので50+50=100でやはり転倒せず。
青の場合は50+75=125となり、100を超えています→ 転倒となります。
このようにタイヤのグリップ力を横にどれだけ使っているのか? 縦にどれだけ使っているのか? を分解して考え、その総和が100を超えていなけば転倒する事はありません。
中級者向け
実はさきほどの初級者向けの考え方は、100を超えても限界はまだ少し先にあり正確ではありません。
中級、上級の方への正しい理解は下記の通りです。
摩擦円で考えられるライダーこそ真の上級者!
実は初級者向けの図は、100+0の部分は正解なのですが、それ以外の所は正確ではありません。
タイヤのグリップ力は、縦力+横力=合力となります。
するとタイヤのグリップ限界は、円形状となりこれを「タイヤ摩擦円」と呼びます。
このタイヤ摩擦円の中でグリップを使う必要があり、縦or横の合力が摩擦円の外に出てしまうと転倒となります。
なので、安全マージンラインの単純な足し算で計算した結果は、摩擦円に対して余裕を持った値となります。
余裕=水色ゾーン
一般公道ではコーナリング中にマンホールや水たまり、駐車車両を避けるなどマージンを持つ必要があるので、足し算法が良いと思います。
しかしガチンコでタイムを出したい! と思うレーサーは別でしっかりと摩擦円ギリギリまでグリップ力を使う必要があります。
その場合は単純な足し算ではグリップ力を余らせてしまうので、しっかりと摩擦円を頭に入れながら走る必要があります。
「滑った」のなら
- 寝かしすぎた・・・横力使いすぎ
- 開けすぎた・・・縦力使いすぎ
- ブレーキ残しすぎた・・・縦力使いすぎ
と分解して考える事ができます。 縦と横、この2つをどのようにコントロールするのか? が非常に大切なポイントです。
上級者
エキスパートは更に摩擦円が「円」ではなく「楕円」である事を理解する必要があります。
ここまで知りたい人はもはや変態の称号を付与されたライダーですw
摩擦円は太線
極限までタイムを削るには、摩擦円のギリギリを使い続けるかに掛かっています。 常にグリップの限界で走る事が最も効率が良い訳です。
横グリップ最大なら、スリップアングルがしっかり付く程度。
縦グリップならスリップ率が10〜15%程度
この少し滑った領域をいかに長く引き出す事ができるか? 使う事ができるか? ここが勝敗のポイントといっても過言ではありません。
摩擦円は楕円
実際の摩擦円は真円ではなく楕円形状になります。 しかもこの形も条件によっては刻一刻と姿を変えます。
レース中、突然雨が降ってきたら・・・当然円は極端に小さくなりますよね。
またバイクの場合、直線でのフルブレーキングはグリップ限界までタイヤを使う事ができきません。
それは図中にもあるように、「グリップ限界よりも先にジャックナイフ限界が来てしまう」からです。
なのでFrタイヤがロックするよりも先に前転してしまうので、グリップ力を100%引き出す事ができません。
タイヤのロック限界より先に、ジャックナイフしてしまうので100%のグリップ力を使えない。
F1など4輪はFrロックするまでブレーキを掛け縦グリップ100%を使い切れる事は大きな違いである。
その意味で、バイクの場合はグリップ限界の摩擦円というよりは、縦グリップは実用領域として100%使えない特性を持っています。
この事からFrサスペンションのストロークマックスは、直立ではなく、直立から少し寝かしてコーナーにエントリーする瞬間が最も深く入ります。 (ちょっとブレーキングドリフトしているような状態)
直立フルブレーキングにおけるロック限界まで到達できないからこそ、コーナーエントリーで如何に100%近くを引き出せるか? が大きな差となって現れます。
特にプロライダーはこのFrのグリップ力を使い切る事が上手く、立ち上がりでいくら頑張っても追いつけないし、いとも簡単に&あっさりと刺されるのは、この領域の実力に差があると言って間違いありません。
プロはFrタイヤを使える!
タイヤグリップのまとめ
如何だったでしょうか?
タイヤ単体でのグリップ力を高めるなら
- デカくて太く
- 溝を少なく
- 接地面を広く
- 粘着摩擦を高く
してやるとグリップ力が生まれます。
そしてバイク全体で考えるときには
- 垂直荷重を高く
この両輪で考える必要があります。 タイヤにはクーロンの法則は成り立たない!なんて声を大にして発狂しているショップさんがありますが大きな大きな間違いである事が分かって頂けたのではないでしょうか。
自分の頭の中身を書き出したBlogなので分かり難い点が多々あるかと思います。
ぜひご指摘を頂きたいと思いますのでコメント下さい。 順次わかりやすく改廃してきます。
また下記2つの項目は有料記事にしようかな? と企んでおります☆
とは言え、高速コーナーだけはグリップ上がるよ