こんにちは!MOTO-ACE-BLOGerの@Andyです。(You tubeチャンネル→MOTO-ACE-VLOG)
ライダーに限らず、誰しも一度は触ったことのあるボルトとネジ。 よくネジを締める、とかナットを締めるける、なんて言いますが、「ボルトやビスを締め付けると、部品同士がナゼ固定されるのでしょうか??」
そのメカニズムって何? と聞かれた時、なんて答えますか? この記事を読み終える頃には、自信を持って答えられるハズなのでメンテナンスや、ツーリング先のダベリングネタとして使って頂けたら本望です。そしてボルトの本質を捉える事で、バイクの性能を更に高める事が可能です。
バイクとは切っても切れない関係にある、ボルト&ナット。 エンジン内部はもちろん車体部品や足回り部品、電装部品などほとんどの部品は固定する為の方法としてボルトやナットを使用しています。
何もバイクに限った部品ではない為、どんな世代の方も子供の頃から慣れ親しんでいる部品に何も疑問を抱く事はないと思います。 しかし時代とともに新しい締め付け方が定着して来たり、「絶対に緩まないナット」が開発されたりと進化を遂げています。
順を追って理解すれば、部品を変えなくても性能を高める事のできる部品はボルト&ナットしかない事がわかります。 こんなカッコイーチタンボルトも締め付けを間違えると・・・?
記事の目次
1. ボルトの基礎知識
基礎1. ネジの歴史
ネジの歴史について諸説ありますが、新聞とネジが意外にも結びつくのです。 紀元前100年に、当時のヨーロッパでオリーブの実をすりつぶす為に、「ネジプレス」というネジのような形をしたプレス機(機械と呼べるレベルではないが)が最初だそうです。(アルキメデスが発明したアルキメディアン・スクリューと言う説もアリ)
このねじプレスのアイディアを応用した印刷機が1450年頃に登場し活字文明の先駆けとなりました。新聞の事を”The Press”と言うのは、その名残です。現在のモータースポーツでも記者やメディア関係者を示す言葉として「プレスエリア」とか「プレス席」、「プレスビブ」などと言う理由は、実はネジに語源があったと言う事です。
そして1500年頃、現代と同じ金属ネジを使用して締結する方法を考案したのがあの有名なレオナルドダビンチです。 ネジのみならず、タップとダイスまで考案したと言うから驚きです。 凡そ500年前に、現代のネジの原型が誕生したと考えられています。
基礎2. ボルトの呼び方
様々な種類の中から、バイクに使用されるネジは凡そこの呼び方で通じます。 左の図の場合、M4(エムヨン)の長さ10mm(トーミリ)と言います。
自分でメンテナンスする際、M6ボルトかM8ボルトが多いと思います。 M6x15mmは、「ロッカケジューゴ。 M8x24は、「ハッカケニジューヨン」などと呼びます。
「M6x10」の場合、Mはメートルネジを表します。 6はネジ部の径が直径6mmである事を表します。10は長さが10mmである事を表しています。
もし、ドリルで穴を開けボルトを貫通させる場合は、径を表す数値を参考にするとドリル径を迷う事がありません。
( ̄▽ ̄)
基礎3. ねじピッチ
ネジの頂点〜次の頂点までの長さをピッチと言います。ピッチ=1.0と表記があれば、ネジを1回転させると、ネジが1.0mm移動する事を意味します。
バイクのリアサスペンションに車高調整機能がある場合、車高調整する為のネジは、ほとんどがP1.0mmとなっています。
それは、0.5mm刻み(半回転)で車高を調整でき、エンドアイなどの調整部を1回転させると車高が1mm変化するなど管理しやすい事が理由です。
ピッチは、同じ径のボルトでも種類があるので、注意が必要です。例えばM10ボルトの場合、0.75, 1.00, 1.25, 1.50の4種類があります。 HONDAは1.25を標準としていますが、1.50を基本とするメーカーも存在します。
このピッチが合っていないとボルトが入らない(ナットが掛からない)ので適合を確認してください。 ピッチの表記は、数字の手前に「P」を記して、P1.25やP1.0などと表します。
2. ボルトが締まる原理
冒頭のタイトル、お待たせしました。 サンデーメカニックの方や、サーキットやワインディングで愛機のポテンシャルを高めたい!と普段から考えているライダーは多いはずです。
そしてバイクを構成する数々の部品のほとんどは、「ボルト締結」によって固定されています。いわゆる、ねじを締めると言う行為。
このネジを正確な知識を持つだけで、次回のメンテナンスの時にはマシンの性能をコントロールする事ができます。 うそのようなホントの話で、世界選手権のレース現場でも実際に行う事があります。
理屈1. 必要としている力(被締結力)は軸力!
軸力とは、締め付けにより引っ張られたボルトが反発し非締結部を押さえつける力のことです。なんのこっちゃ???
流石ドゥーハン先生! よく分かってらっしゃいます。 少し極端な例ですが、こう言う事です。
M6x10のボルトをしっかりと締付けたとします。 締め付ける前のボルト長さは10mmです。(先に記した通り)
締付けた後のボルトは伸びるので仮に、長さ12mmとします。10→12mmへ2mm伸びた計算になります。
この12mmに伸ばされたボルトは、元の長さ10mmへ戻ろう(縮みたい!)とする力が働きます。 金属(ボルト)を変形させると、元の形に戻ろうとする力がはたらきますよね。 この、軸が発生させる復元力の事を軸力と言います。
と言う事です。 仮にM6x10ピッチ1.0mmのボルトを、手締めした位置から、工具を使用して1回転させると、ボルト長さは11mmになるのは理解頂けますよね。
この場合、1mm分伸ばされたボルトが、11→10mmへ縮みたい!と発生する力を利用して締付けている事になります。
そう、ボルトはバネなのです。工具を使ってバネを引っ張り、バネが縮もうとする力を利用して、部品を固定しています。 この力が「軸力」です。
ボルトの絵
ボルトを締める(原則はナット側)と、ボルトが緑矢印のの方向へ引っ張られ、ボルト長さが長くなります。 ボルトは金属ですから、元の長さに戻ろうとする力が働きます。つまり軸力が発生します。
人間の手とバネの絵
人間が手で持っているバネを広げようとします。 すると? バネは元の形(長さ)に戻ろうとする力を生み、筋力トレーニングを行う事ができます。 このバネと手の関係をボルトに置き換えるとこのようになります。
- 「人間がバネを伸ばす=ボルトを締める」
- 「バネが縮もうとする力=軸力」
- ボルトという名の金属バネを引っ張り、ボルト長さを伸ばしている。
- 伸びた金属バネが、元の長さに戻ろうとする復元力を利用している
- ボルトの締め付けるチカラ加減で、バネの復元力をコントロールできる = つまりセッティングできる!!
理屈2. バイクの標準ボルトの軸力はどのくらい?
ボルトの強度区分と、材質、グリスの有無など様々な条件で変化しますが、量産車のバイクに使われるボルトを標準トルクで締め付けた時の発生軸力は下記の通りです。
- M6ボルト = 標準締付けトルク 10Nm = 軸力約 1.4ton
- M8ボルト = 標準締付けトルク 22Nm = 軸力約 2.5ton
- M10ボルト = 標準締付けトルク 34Nm = 軸力約 3.8ton
- M12ボルト = 標準締付けトルク 54Nm = 軸力約 5.9ton
- フロントアクスルシャフト = 軸力約 3.0ton
- リアアクスルシャフト = 軸力約 3.2ton
標準ボルトの発生軸力 「締付け条件:WET」
どうですか? 細いM6ボルトでも「キュッ」とボルトを締めるだけで、1tonを軽く超えるチカラを出す事ができます。ネジとは大きな大きなチカラを持った小さな部品である事がご理解頂けたのではないでしょうか。
3. 適正な締めつけトルクは、摩擦を理解すべし!
ここまで読んで頂いた方は、ボルトのチカラの発生メカニズムをご理解頂けた事と思います。 では、同じボルトでより大きなチカラを発生させるにはどうすればよいでしょうか・・・??
そう、もっとボルトを締め込めば、たくさん伸びで大きなチカラを発生させる事ができます。
しかし、ボルトを締め込むと大きくなるチカラは、軸力だけではありません。比例して「摩擦力」も大きくなっていきます。この事を理解せずして、マシンポテンシャルを引き出す事は出来ないのです。
摩擦1. 摩擦でボルトの緩みを防止
上の図をご覧いただくと分かる通り、締付けトルクのほとんどを、摩擦に奪われてしまいます。 M6ボルトを軽く締めるだけで1tonの「重り」を乗せながらボルトを回転させている事と同じ状態な訳ですから、致し方ありません。 そして、我々ライダーはこの摩擦力に常に助けられています。 それは、ボルトが緩まないチカラの源なのです。 ボルトの摩擦のおかげで、締め付けた状態をしっかりとキープしてくれるのです。 しっかりと締まっていないボルトは、軸力も弱いと同時に、ロックしてくれる摩擦力も弱いので、すぐに緩んでしまいます。 オートバイのボルトやネジが走行中に緩まないのは、この摩擦力のお陰なのです。
摩擦2. 安定した軸力を得る方法
ボルトを締め付ける上で欠かせない軸力。 軸力と摩擦の関係は切っても切れない縁である事が分かりました。
あとは、正確なネジ締めを行う上で何度締めても同じ軸力を得られるかどうか? ここが重要です。
方法1. ネジ部をクリーンな状態に保つ
まずは、雄ねじ、雌ねじのネジ部全体をクリーンな状態に保つ必要があります。 汚れ、砂や砂利などの異物、古いグリスや油など不要な物を確実に取り除きます。
異物を噛み込んだ場合、摩擦ロスが大きくなる分、適正な軸力を得ることができません。 座面や、ワッシャも綺麗に清掃します。
方法2. 手締めできる状態で、ボルトを回転させる
ボルトが斜めに入ったままの状態、砂を噛み込んだ状態、ボルトが部品と接触している状態になると、摩擦力が大きすぎて、手で回す事が出来なくなります。
その状態のまま締め付けると・・・? 締め付け力の殆どが、摩擦力に奪われ、軸力が発生しません。つまり・・・ボルトを締めたと勘違いした状態のまま走行する事になります。
方法3. ボルトと座面をグリスアップして摩擦を安定させる
金属ボルトの場合、ネジ部、座面部をグリスアップして締め付けると、摩擦が低減し、且つ摩擦力が安定し、締付け条件を安定させる事ができます。
この時、グリスを塗った時(WET)と、塗らない時(DRY)でそれぞれ同じ締め付け力で締めた場合、WETの方が摩擦が低減する分、軸力が増加します。(ボルトがDRYに比べ、より伸びる)
グリスアップしたボルトの再締め付け可能な回数は3回です。
4回目以降は、一気にDRY条件に近づいてしまう為、再度塗り直しが必要です。
レースの現場で、足回りのセッティングの為、ボルトの緩め→締めを繰り返す事を想定し、1日の走行が終了したり、レースカーのエンジンを載せ替えるタイミングの時などに、再グリスアップを施します。 使用するグリスは、モリブデングリスです。
トルクレンチを使用して、毎回同じ力で締め付ける
1,2,3をきっちり行った上で、最後の締め付ける力を常に一定に保つ事が絶対に必要な条件です。
どんなにコンディションを良く保った状態でも、バネを伸ばす力加減にバラつきがあったのでは、部品の変形を一定に保つ事が出来ません。
純正のサービスマニュアルは、発生する軸力による部品の変形を考慮しています。軸力を算出し、その軸力を発生させる締付けけトルクをマニュアルに乗せる部位があります。 (特にエンジン部品)
摩擦4. レースメカニックのネジ締め
ネジは、バネである。 ネジは摩擦によってロックされている。 この事について解説してきました。 少し別の言い方で表現すると、「ネジを100本締める」という事は、「100本のバネを調整している事である」とイコールの関係です。レーシングマシンは全ての形に目的があり、無駄がありません。
その性能を大きく左右する組み立ては、とても重要なのです。エンジンも含め1000本を超えるネジを使用して組み立てている訳ですから、そのうちの2本のバネ(ネジ)の力が他と同じでなかったら、強敵YZR-M1に勝利する事は出来ません。
CBR1000RRのフロントキャリパを締め付けているボルトの締め付けトルクは45Nmです。 1本につき約4tの軸力を発生させます。 2本使用しているので、あの小さな部品に、合計8トンの力が加わっています。
もし片側が6トン、もう一方が3トンの状態で果たしてブレーキの性能が発揮されるでしょうか?
また、エンジンのシリンダーを締め付けているスタッドボルトは塑性域ボルト(そせいいき)と呼ばれる特殊なボルトを使用していて、指定してトルクで締め付けた後、指定した角度だけ更にボルトを締めこみます。(このボルト1本で7tonの軸力が発生!)
なぜか? シリンダーは肉が薄いのに、燃焼圧力の反力を受けるため大きな軸力が必要な部品です。 しかもエンジンをコンパクトに設計し且つ軽量である事も求められるため、細くて強度の高いボルトを使用します。
1本だけ軸力が高いとか、1本だけ軸力が低いという状態になると、シリンダーが均等に変形せず、狙いのシリンダー形状が出せません。 → その結果、エンジンの出力をロスしてしまう事になります。
街乗りバイクでは、締め付けによって、大きく性能が変化するパーツとして、ブレーキ、サスペンション、アクスル周り、ハンドル締め付け、フォーク締め付け、ピボット周りが挙げられます。
デキるメカニックは、何度分解しても、同じ性能(軸力)で組み立てる事ができます。 最も言い換えれば、それは「同じ締め付け条件を再現して組み立てる事ができる」と言う事です。
例えばフロントフォークを取り付けるトップブリッジとボトムブリッジの締め付けが強過ぎると、フォークのアウターチューブを変形させてしまい、フォークがスムーズに動かなくなってしまいます。
デキるメカニックは、「分解 → 清掃 → 入念な点検 → 再グリスアップ → 同じ力で締め付け」このサイクルを必ず守っています。 ※最近SNS等で、Moto-GPの現場で部品を楽しく洗浄している動画が良くアップされていますね☆
ボルトを締めるという事は、ボルトに締め付けられる部品も軸力によって変形が生じます。
ボルトの軸力をコントロールし、部品の変形をコントロールできるメカニックが、マシンのポテンシャルを最大限引き上げてくれる事は間違いありません。
4. よくある勘違い
トルクレンチを使用して同じトルク値で締めたボルトでも、同じ軸力とは限りません。 ボルトの汚れや、座面の摩擦によって軸力が変化します。 トルクレンチは、トルク〇〇Nmで締め付けた時、軸力はこの位を狙う事ができる!と言う「目安測定器」です。
ボルトの締め付け方法は、角度を管理する「角度方」、ボルトの伸びを実際に測定する「長さ測定方」、 歪みゲージを貼り付けて実際に軸力を図る「歪み測定方」などがあります。
トルクレンチは、ボルトの摩擦成分の影響をダイレクトに受けるので、その事を理解して使用すると、整備の幅が広がります。
HRCでは東日製トルクレンチを選ぶメカニックが多いです。*繰り返し制度が高い事と、耐久性が高い事が選ばれる理由。
細いネジほど効率が良く、太いネジほど効率が悪い。 アクスルシャフトなど、太いネジは軸力も大きくなりそうな気がしますが、太くて剛性が高い分、ボルト(シャフト)が伸びず、軸力(伸び)を発生させる為に大きな力が必要になります。
大きな力を発生させる大きなナットは、反力を受け摩擦力も増大するので、効率が悪くなります。 リアアクスルナットを115Nmと言う大きな力で締め付けても軸力が3t程度しか発生しないのはその為です。
M6よりも、M5の方が、軸力が摩擦に奪われる割合が小さくなる為、効率が良くなります。
この記事を読んだ後、サンデーメカニックの方がが楽しく充実した整備ができるようになって頂けたら嬉しいです!
ワッシャーの正しい使い方↓↓
Let's Fun! Ride! Run!
Andy