今回はエンジンオイルに含まれる添加剤にフォーカスして解説します。
※ベースオイルについての記事を先に御覧ください↓
最高級オイルを選ぶ為に必要なベースオイル(基油)の知識
添加剤がなぜ必要なのか?
潤滑油添加剤は「潤滑油基油に潤滑油として必要な性質、機能を付与、或いは補足増強する物質」と定義されています。
エンジンオイルの要求特性を満たすため、基油に加えられる物が添加剤です。
添加剤が持つ作用は大きく分けて3つあります。
- 助長作用:基油が本来持っている性能を強化
- 付加作用:基油が持っていない性能を補完
- 保護作用:基油を酸化劣化などから保護する
オイルやグリースなどの潤滑剤は、用途や使用条件によって様々な潤滑性能が求められます。 必要な潤滑性能を発揮させるためには添加剤の役割が重要で大きなウェイトを占めています。
添加剤の種類と効果
この他にも添加剤は数多く存在します。 ↑は代表的な添加剤一覧です。
酸化防止剤
潤滑油が酸化すると、劣化物が重合・縮合して油に溶けないスラッジやデポジットが生成され、オイル通路の閉塞やフィルタの目詰まりを起こします。
これらのトラブルの発生を未然に防ぐべく用いられます。
潤滑油が酸化すると、アルコール、有機酸、有機エステル、アルデヒド、ケトン、カルボン酸などの劣化物が油中に生成されてしまいます。 酸化で生じた酸や酸化物は金属を腐食し摩耗を促進させてしまいます。
酸素や空気が油中に入り込み激しく掻き混ぜられると酸化が促進され、温度が170〜340℃の間では油温が10℃上がる毎に反応速度は倍になります。
劣化によって生まれる「油性酸化生成物」は色相が黒色化し、オイル粘度を高めます。
清浄剤
洗浄剤は、金属系のヘッドとハイドロカーボンテール(親油基)で構成されており、金属面の汚れ除去、酸性物質を中和させる働きがあります。
簡単に言うと、「汚れを吸着する」物質ですね♪
分散剤
すぐに大きくなると、汚れ同士がひっついて雪だるまのように成長してしまします。 すると油路のあちこちを詰まらせトラブルの元になるので、小さい汚れを小さいまま保ちたい訳です。
油性向上剤(摩擦低減剤)
混合潤滑領域において摩擦を減少させ、摩耗も減少させる事を目的に使われる添加剤です。
金属接触を防ぐには油膜強度(※油膜厚さではい)を高くしなければなりません。
油性向上剤は物理吸着or化学吸着によって金属間に強い吸着膜を形成し、金属接触を防ぎます。
- 化学吸着:化学反応を起こし科学的に吸着する
- 物理吸着:ファンデルワールス力(分子間力)で吸着する
結合力:化学吸着>物理吸着 ※高い>低い
物理吸着
一般的には物理吸着の方が多く、油性向上剤に含まれる極性基が金属表面の吸着&整列します。
整列した分子間には、分子間引力が働き、横方向に引っ張り合って配列を促進→ 結果より強固な吸着膜が出来上がります。
化学吸着
ステアリン酸(高級脂肪酸)のように反応性があり、摩擦金属表面が鉄、銅のように活性な素材の場合、金属表面に化学吸着し金属石けんを形成。→強固な吸着膜が出来上がる。
ベースオイルグループⅤの「エステル」は、グループⅡの鉱物油の油性向上剤として使われる事があります。 そのくらいエステル、特にポリオールエステルの化学吸着力は強く、境界潤滑や混合潤滑領域で効果を発揮してくれます。
極圧添加剤
目的:高速、高圧の条件下における摩擦及び摩耗を低減させる事。
油性向上剤(摩擦低減剤)の吸着膜は、高速・高圧条件下で油温が上昇するにつれ配列を乱し、ついには脱膜を起こします。
その状態では摩擦面を被覆することができず焼付いてしまいます。 これを防止するのが極圧添加剤です。
どのように作用するのか?
現在も様々な研究が行われていますが、不明な部分が多く完全解明には至っていません。 その中でも有力とされる”説”がこちら↓
極圧添加剤は摩擦熱によって反応し、摩擦面で化学反応が起こります。 この化学反応によって生成された被膜(極圧膜)はせん断強さが低く、一種の固体潤滑剤として作用すると考えられています。
金属が接触してある温度以上になると極圧添加剤が金属と化学反応→ 反応膜が潤滑膜となり、金属同士の溶着(焼付き)を抑えます。
粘度指数向上剤
基油(ベースオイル)以上の粘度指数の要求に応える為、粘度指数を向上させる
粘度指数が高い=低温〜高温まで、オイル粘度の変化が少ない
粘度指数が低い=低温〜高温でオイルの粘度が大きく変化する
粘度とは全く違うから勘違いしないでくださいね!
溶剤生成によるベースオイル粘度指数(VI)=95〜105
水素化処理によるベースオイル粘度指数(VI)=100〜140
ATミッションオイル、エンジンオイルなど更に高い粘度指数を要求される事がり、満足させる為に加えられる添加剤が粘度指数向上剤です。
高分子化合物で構成されており、油温が高い状態でもオイル粘度を維持する事が可能。
仕組みとしては、ポリマーが糸くず状になって浮かんでいる状態から、油温が上昇すると糸くずがほどけます。
このほどけた糸が抵抗となり周囲の基油と相互作用を働いて粘度を上昇させます。
この結果、低温では作用せず、高温の時に限って粘度を上昇させてくれます。 実際には基油の粘度が相対的に下がるため、全体として粘度は下がります。
(粘度変化を少なくするイメージ)
- 低分子:原子が1〜100個繋がり、分子量が100程度
- 高分子:原子が1000以上繋がり、分子量10,000以
- 高分子=ポリマーと呼ばれる
粘度指数向上剤のデメリット1
エンジン内部で使われ続ける事で、せん断作用によりポリマーの結合が切れ、小さな分子構造に変化する。
その結果、粘度指数向上作用を失ってしまう。
粘度指数向上剤のデメリット2
熱を受けると炭化しやすく、高温に晒され続けるとスラッジを生成してしまう。 結果、油路やフィルターの詰まりの原因となる。
安いオイルはベースオイルの粘度指数が低い→ 多量の粘度指数向上剤を必要とする。その結果、ライフが短くなる事もここから予想することができる。
安いオイルを短いサイクルで交換する事は理に叶っているかも!
流動点降下剤
潤滑油を冷却していくと、オイルがドロドロになり流動性が失われます。
ナフテン系基油:オイルそのものの粘度が著しく高くなって、流動性を失うもの。(Viscosity Pour Point)
パラフィン系基油:オイルの中に溶存しているワックスが析出し、網目構造に成長する為、オイルの流動性を失うもの。(Wax Pour Point) 流動点降下剤は、この網目構造の成長を妨害して固まる事を遅らせる働きを持っています。
流動点硬化剤はパラフィン系基油に降下を発揮します。 (現在のエンジンオイルはほとんどがパラフィン系です)
防錆剤
鉄や鋼の表面に吸着膜を作り、水や空気中の酸素(水分も)が金属面に接触する事を防ぎ、錆の発生を防止します。
また極わずかですがオイル内に溶存する酸素からも金属面を守ります。
添加剤のまとめ
今回紹介した添加剤はそれぞれが数百種類もあるような中から代表的な物をピックアップしたに過ぎません。
とはいえ、ここを理解するとベースオイルの性能が如何に重要か? という事が見えてくると思います。
例えば、ベースオイルがグループⅡの物でサーキットで使えるオイルを作るには? と考えると、粘度指数向上剤と、流動点降下剤をしっかり混ぜないといけませんよね。
でも粘度指数向上剤は熱にも弱いし、スラッジがすぐに出てきて効き目もすぐに低下してしまう・・・。
だったら最初からエステル系を使ったほうが高温&高負荷領域も性能が高く長持ち! ってロジックが成り立ちますよね。
逆に小排気量のスーパーカブ号毎日通勤レーシングで乗るぜ! の方であればグループ2のベースオイルを使用して、夏前と冬前の5月&11月の年二回のサイクルでオイル交換すれば、安価なオイルで安心して乗れますよね。
残念ながら用品店やバイク屋さんに並んでいるオイルのパッケージを見て、詳細な成分表は分かりません。
が、中には独自ブレンドで売り出しているオイルもあり、そういったブレンド屋さんのオイルはベースオイル、添加剤など結構詳細にデータを出している商品もあります。
それを見ながらオイルを選べるようになると、また一つオイル交換の楽しみが増えると思うのです。
今回の記事がオイル交換の面白さに繋がってもらえると嬉しいです
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